-古本屋ATrACT-漫画図鑑vol.95
封神演義
作者:藤崎竜
巻数:全23巻
発表年:1996~2000
掲載:週刊少年ジャンプ
出版:集英社現代から三千年以上前の古代中国、殷王朝時代。邪心を持つ仙女・妲己に、皇帝・紂王が心を操られ国は乱れた。そんな人間界を救う為「封神計画」が始動した。その実行者として太公望が選ばれ…。
古代中華ファンタジー『封神演義』.原作は中国の古典怪奇小説だ.
主人公・太公望が好き過ぎる.
まずオススメしたいのが,主人公・太公望のキャラクター.
何を隠そう,今まで何千冊と漫画を読んできた私が全漫画の中で最も好きなキャラはこの太公望だ.
週刊少年ジャンプの主人公といえば,もの凄く強くて・頼りがいがあり・みんなの憧れの存在であるというのがイメージされるだろう.
だが,太公望ははっきり言ってその対極にいる.
物語は王道的な超能力バトルなのだが,主人公である太公望の能力はあまり強くない.
いや,強いっちゃ強いんだけど,周りの敵味方は更にめちゃめちゃ強くて太公望の能力は霞みまくり.
では彼の何にそこまで惹かれてしまうのかといえば,それは彼の明快かつだらしない頭脳・マイペース上等な性格・溢れる人望.
周りが反則級にめちゃめちゃ強い中,彼は頭脳戦を得意とし,あの手この手で敵を巧みにペテンに掛ける.時には味方からもブーイングを受けるほどの卑怯な手を堂々と使うのだ.
ジャンプに未だかつてこんなにセコイ主人公がいたであろうか.
行動・ギャグのセンスは良くも悪くも飛び抜けている.
しかし,やるときはやるのが彼のニクいところ.
普段は飄々とおちゃらけていて碌に戦いもしないくせに,いざ感情をあらわにし本気を出せば,それはもうカッコいい.
仙界大戦のクライマックス,聞仲と対峙する太公望の姿には…
そんなギャップに一目惚れ間違いなしだ.
あ,齢72歳.ジャンプに未だかつてこんなにジジイ主人公がいたであろうか.
圧巻のストーリー構成.
原作は中国の古典怪奇小説と上記したので,ストーリー構成も何もあったもんじゃないだろうと思うかもしれないが,それは大きな間違いである.
確かに大筋は原作小説通りだ.しかし,物語も終局を迎える全23巻中の第20巻目.
ここにきて物語は原作を完全に無視してとんでもない方向へと走り出す.
あ…ありのまま 『封神演義』を読んだ時の 事を話すぜ!
「おれは古代中国仙界大戦漫画を読んでいたと思ったら
いつのまにか大宇宙ファンタジー漫画を読んでいた」
な… 何を言っているのか わからねーと思うが
おれも 何をされたのか わからなかった
頭がどうにかなりそうだった…
テコ入れ だとか 後付け だとか
そんなチャチなもんじゃあ 断じてねえ
もっと恐ろしいものの片鱗を 味わったぜ…
はい,その通りです.やらかしてくれましたね,藤崎竜大先生.
今までさんざん悪の仙女から人間界を救うぜ!みたいな仙界大バトルを繰り広げていたのに…
いきなり宇宙人とか出てきてあんなこと言われても…まったく納得いかないぜ…
と,ならないのが藤崎竜版『封神演義』の凄いところ!!
なんとその大変換点への布石は,既に,物語序盤から着々と仕込まれていた!
読み返してみれば,あぁ納得.フジリューは誰に感づかれることもなく収束に向けての伏線を貼り続けていたのだ.
読者のほとんどがギャグとして切り捨てていたあの行動や何気ないあのセリフ・お洒落なネーミングに,こんな真意が隠されていようとは.連載中に気が付いた人はたぶんいないだろう.読み返してみてはじめて,幾重にも張り巡らされたフジリューの罠に気が付くのだ.最高に気持ちが良い.
ということで,終盤も終盤に驚愕の完全オリジナルストーリーに突入したフジリュー版『封神演義』は,その勢いのまますべての伏線を回収しつくし,無事に大団円を迎える.
ちなみに主人公・太公望の’正体’も「封神計画」の真意も,この終盤でやっと明かされる.
物語構成が巧すぎて,このラスト3巻はもう,幸せなため息と脳汁が溢れ出して止まらない.
もちろんそれまでの仙界超能力バトル漫画も天下のジャンプで20巻も連載を続けられるだけあって王道的で面白いのだが,このラスト3巻は次元が違う.
ジャンプ漫画は引き延ばし被害にあいがちだが,『封神演義』は不気味なほど鮮やかに終局を迎えた.ジャンプで,いや漫画界を広く見渡しても,これほど綺麗に風呂敷を畳んだ漫画は珍しいだろう.
フジリューのストーリー構成に,ただただ驚愕してしまう.
まとめ
主人公・物語構成以外にも,至高の敵キャラ・聞仲のイケメン具合であったり絶望感であったり,群を抜いたギャグセンスであったり,ギリギリアウトなメタ発言集であったり,ロリッ☆であったり,秘湯混浴刑事エバラであったり……まだまだ語りたいことは山ほどあるのだが,それを描いていたら原稿用紙と時間がいくらあっても足りないので,今回はこのあたりで筆をおかせていただく.