-古本屋ATrACT-小説図鑑vol.23
夜のピクニック
作者:恩田陸
発表年:2004
出版:新潮社高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。
「並んで一緒に歩く。
ただそれだけのことなのに、不思議だね。
たったそれだけのことがこんなに難しくて、こんなに凄いことだったなんて」。
あっという間なんだよね。なにもかも。
はじまる前はぐだぐたうだうだ考えていたことも。
いざはじまってみるとあっという間に終わってしまう。
そして大体、終わってみると楽しかったことしか覚えていない。
『夜のピクニック』を読んで、
強く心に残ったのはそんなこと。
人生に終わりはない。
一つ一つの出来事に終わりはあっても、人生に終わりはない。
「でも、現実は、これからだもんなあ」
物語終盤、融はこんな言葉を洩らした。
劇的な展開を迎え、もしこの「歩行祭」がドラマだったらと話し合う融と貴子。
「歩行祭の終りと一緒に、ドラマも終りだよ。きっと、この世でたった二人きりのきょうだいなんだから、これからは助け合って生きていきましょうつて、美しく微笑みあって約束するところで終りなんじゃない?」
「なるほどね。二人の母親が一緒に迎えに来てて、涙流して仲良くなっちゃったりして?ドラマはいいところで終わるからな」
もちろん、これは作家’恩田陸’が描いた小説(ドラマ)だ。私たち読者は分かっている。
でも、小説の中の2人にとっては現実。
「歩行祭」の終りとともにこの「ドラマ」は終わるが、彼らの「現実」はこれからはじまるのだと。
この融のセリフに鳥肌がたった。
なんというか、久々に読み終わってしまうのが寂しくなった小説でした。
物語中、本を読むタイミングの話が出てきた。
私は『夜のピクニック』をこの高校卒業後かつ大学生の青春真っ只中のタイミングで読めて本当に良かった。
私たちの現実も、これからだ。