【vol.27】お月様は、何でも見ているんだよ。アンデルセン『絵のない絵本』

-古本屋ATrACT-小説図鑑vol.27

絵のない絵本

主人公の「わたし」は貧しい絵描き。
友達はいないし、窓から見えるのは灰色の煙突ばかりであった。
ところが、ある晩のこと。
外を眺めていたら、お月様が声をかけてくれた……

ある時はヨーロッパの人々の喜びと悩みを語り、
ある時は空想の翼に乗ってインド・中国・アフリカといった異国の珍しい話まで…
お月様は、「わたし」にさまざまなお話を聞かせてくれた……

 

作者のアンデルセンは、一生のあいだ旅から旅へさすらって歩いたそう。
そんな彼だからこそ描けた、バラエティに富んだ短編集である。

一篇2~4ページほどの短いお話の中に、人生の本質を突くようなエッセンスが込められていた。
一見、分かりにくいかもしれないが、よくよく状況を思い浮かべてみると、様々なものが浮かんでくる。想像力を膨らませて、頭の中に「絵」を描いてみてほしい。

それは心が温かくなるような優しさだったり。背筋のぞくっとするような冷やかさだったり。

「そうです、月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか! この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎばなしなのです。」

お月様は、空の上から何でも見ている。
私たちのこの何気ない生活も、空の上から見たら、また違った発見があるのかもしれませんね。

そんな不思議な感覚が味わえる宝石箱のような短編集。

夜。一日の終わり。眠りにつく前に。
一篇づつ心に流し込んでいくのがおすすめです。

総評:77%
オススメ度:★★★★★

作品データ
タイトル:絵のない絵本 (原題:Billedbog uden Billeder)
作者:アンデルセン
訳者:矢崎源九郎
発表年:1839,1855
出版:新潮社