【vol.28】小説は、最後のページまで終わらないと、信じていた。住野よる『君の膵臓をたべたい』

-古本屋ATrACT-小説図鑑vol.28

君の膵臓をたべたい

「普通に生きていて、生きるとか死ぬとか、そういうことを意識して生きている人なんて少ない。事実だろう。日々生死観を見つめながら生きているのは、きっと哲学者か宗教家か芸術家だけだ。

あと、大病に侵されてる女の子とか、彼女の秘密を知ってしまった奴とか。

 

ある日、高校生の「僕」は、病院で一冊の文庫本を拾う。
「共病文庫」。
それは、膵臓の病気に侵された余命1年のクラスメイト・桜良の秘密の日記帳だった。

 

面白い。

病気の女の子が死んでしまうお話に、
こんな感想を持つのは適当ではないのかもしれないが、こう言わせていただく。

面白かった。
それはテンポの良い会話劇であったり、主人公たちの成長であったり、
遂に明かされる「君の膵臓を食べたい」の真意であったり。

 

しかし、何よりも面白かったのは、小説の・物語の、そして人生の「お約束」に嵌らないあの瞬間

小説は、最後のページまで終わらないと、信じていた

物語終盤、主人公がこう漏らす。

私も、そう信じていた。久しぶりに、鋭い衝撃が走った。

そこから、この『君の膵臓をたべたい』は真に怒涛の展開をみせるのだが。

 

さて、この物語には、大きな二つの「秘密」がある。

一つは、タイトルでもある「君の膵臓を食べたい」の真意。

そしてもう一つは、主人公「僕」の名前

主人公の「僕」は、他人から自分がどう思われているのか考えるのが癖。
この文中では、「僕」の名前は、他人が「僕」のことをどう思っているかに【】で書き換えられている。
例えば、「だから、結局【秘密を知ってるクラスメイト】くんにしか頼めないよ」
「【大人しい生徒】くんは?」「【地味なクラスメイト】くん、桜良と仲いいの?」といった風に。

この「僕」の名前が、この物語における大きな鍵となっている。

 

「僕」は、他人と関わるのを拒み、いつも一人で過ごしていた。

そんな内向的な「僕」とは反対に、明るく溌剌とした桜良。

そんな二人が織りなす、残り少ない青春の記録。

彼女の見る道の色と、僕の見る道の色は本当なら違ってはいけないんだ。
この言葉に、全てが込められているように感じた。

「死」と向き合うことで「生」と向き合ってほしい。

もうすぐ死ぬはずなのに、誰よりも前を見て、自分の人生を自分のものにしようとする彼女。

そんな君に、僕はずっと…

総評:84%
オススメ度:★★★★☆

作品データ
タイトル:君の膵臓をたべたい
作者:住野よる
発表年:2016
出版:双葉社