【この小説がやばい!!H29年度版】日本屈指の小説オタクが厳選する今年度オススメ小説10選!

どうも、「この小説がやばい!!」選考委員長の吉野シンゴです。

毎年度末恒例。今年も遂にこの季節がやってきて、気が付いたら通り過ぎていましたが、開催します。

「この小説がやばい!!H29年度版」

毎年度末に、吉野シンゴがその年度に読んだ小説を独断と偏見と気合でランキング付けする、各業界最注目のこの夢の企画。
H29年度版は選考委員長・吉野シンゴの不徳の致す限りで開催日が大幅に遅れてしまったことをここに謝罪いたします。
この企画を楽しみにする余り、多くの方々を開催予定日であった3月31日から本日まで「いつ今年度版の『この小説がやばい!!』が公開されるのかなぁ」とパソコンの前にへばり付かせてしまい、日本経済・いや世界経済を滞らせてしまったことへの責任をとり、「この小説がやばい!!H29年度版」は全力で書き上げさせていただきました。

「この小説がやばい!!」ルール解説!どどん。

「この小説がやばい!!」とは…

-秘密結社ATrACT-古本支部-古本屋ATrACT-店主・吉野シンゴがその年に初めて読んだ小説の中から
独断と偏見と愛と勇気と気合でもって厳選した作品をランキング付けするという企画である…!!

もう一度繰り返すが、ノミネート作品は吉野シンゴがその年に読んだ小説だ。
その作品が発表された年は関係ない…!

「この小説がやばい!!」とは…!

往来の名作から、今をときめく新作まで、幅広い層の作品がランクインすることで
全国の小説ファンから毎年大きな注目を集める、日本最大級の小説格付けである…!!

そして、なんと今回から小説部門の他にエッセイ部門も開設!
平成29年度、私はエッセイにハマりにハマり、自分でも書きたくなっちゃって実際に書いちった始末。
厳選3作品をピックアップして紹介します。

ではいってみよう。

「この小説がやばい!!H29年度版」開幕。

 

第10位:でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ───

『ぼくは勉強ができない』山田詠美

ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ――。17歳の時田秀美くんは、サッカー好きの高校生。勉強はできないが、女性にはよくもてる。ショット・バーで働く年上の桃子さんと熱愛中だ。母親と祖父は秀美に理解があるけれど、学校はどこか居心地が悪い。この窮屈さはいったい何なんだ! 凛々しくてクールな秀美くんが時には悩みつつ活躍する高校生小説。

「ぼくは確かに成績が悪いよ。でも、勉強よりも素敵で大切なことがいっぱいあると思うんだ───」

第10位は、山田詠美ぼくは勉強ができない』。
私も勉強ができる方では決してないのでね。

青春小説とはまた違う清々しさのある、これは「高校生小説」。

自分が正しいと思ったことは貫き通す。例え周りがどうであろうが。
とにかく真っ直ぐ過ぎる主人公・秀美くんが気持ち良い。

勉強なんてできなくたって、もっともっと楽しくて大切なことはそこら中に転がっているんだ。と素直に感じさせてくれる一冊。

みんながこんな風に生きられたらなぁ。とぼくは思う。

総評:83%
オススメ度:★★★★★

作品データ
タイトル:ぼくは勉強ができない
作者:山田詠美
発表年:1996
出版:新潮社

 

第9位:お月様は、何でも見ているんだよ。

『絵のない絵本』アンデルセン

わたしは、貧しい絵描き。友達はいないし、窓から見えるのは、灰色の煙突ばかり。ところがある晩のこと、外をながめていたら、お月さまが声をかけてくれた……。ある時はヨーロッパの人々の喜びと悩みを語り、ある時は空想の翼にのって、インド、中国、アフリカといった異国の珍しい話にまで及ぶ。短い物語の中に温かく優しい感情と明るいユーモアが流れる、宝石箱のような名作。

第9位、アンデルセン絵のない絵本』。

(自称)読書家・吉野シンゴ、齢20にして初めて外国文学を読みました。ええ。
『絵のない絵本』という矛盾しか生じていないタイトルに惹かれて手に取った本作。

作者のアンデルセンは、一生のあいだ旅から旅へさすらって歩いたそう。
そんな彼だからこそ描けた、バラエティに富んだ短編集である。

一篇2~4ページほどの短いお話の中に、人生の本質を突くようなエッセンスが込められていました。
一見、分かりにくいかもしれないけれど、よくよく状況を思い浮かべてみると、様々なものが浮かんでくる。想像力を膨らませて、頭の中に「絵」を描いてみてください

それは心が温かくなるような優しさだったり。背筋のぞくっとするような冷やかさだったり。

「そうです、月にとって話せないようなことが何かあるでしょうか! この世界の生活は、月にとっては一つのおとぎばなしなのです。」

お月様は、空の上から何でも見ている。
私たちのこの何気ない生活も、空の上から見たら、また違った発見があるのかもしれませんね。

そんな不思議な感覚が味わえる宝石箱のような短編集。

夜。一日の終わり。眠りにつく前に。
一篇づつ心に流し込んでいくのがおすすめです。

総評:77%
オススメ度:★★★★★

作品データ
タイトル:絵のない絵本 (原題:Billedbog uden Billeder)
作者:アンデルセン
訳者:矢崎源九郎
発表年:1839,1855
出版:新潮社

 

第8位:飽くなき古本愛。そこへ持ち込まれた事件の数々。

『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』三上延

鎌倉の片隅でひっそりと営業をしている古本屋「ビブリア古書堂」。そこの店主は古本屋のイメージに合わない若くきれいな女性だ。残念なのは、初対面の人間とは口もきけない人見知り。接客業を営む者として心配になる女性だった。だが、古書の知識は並大低ではない。人に対してと真逆に、本には人一倍の情熱を燃やす彼女のもとには、いわくつきの古書が持ち込まれることも、彼女は古書にまつわる謎と秘密を、まるで見てきたかのように解き明かしていく。これは“古書と秘密”の物語。

「わたし、古書が大好きなんです……人の手から手へ渡った本そのものに、物語があると思うんです……」

第8位はビブリア古書堂シリーズ第一作、三上延ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』。
古本大好き人間の私としてはもう、読まない理由が見当たらなかったのです。

人の手から手に渡った本そのものに物語がある。
なんて素敵な思想なんだろうか。
古本への暖かな愛情が感じられるとても優しい物語。

が、想いがあるからこそ、「事件」が起こるわけです。
栞子さんの営む古本屋さんには、いわくつきの古書が持ち込まれることも…
最初の頃は可愛いもんでしたが、次第に割とガチな「事件」が起こっていくので油断は禁物でございます。
普段は人見知りでおたおたしてる栞子さんが、そんな古書の謎と秘密をすらすらと解き明かしていくのは爽快。簡単に言うとギャップ萌え。

新品の本屋、ではなく人々の想いの籠った「古本」屋が舞台であるというのがキモとなっているんですね。
古本への愛が感じられる暖かいお話でした。

総評:86%
オススメ度:★★★★★

作品データ
タイトル:ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~
作者:三上延
発表年:2011
出版:アスキー・メディアワークス

 

第7位:愛する人の為の完全犯罪。だが、嘘をつき通すことは少年には容易ではない。

『青の炎』貴志祐介

櫛森秀一は、湘南の高校に通う十七歳。女手一つで家計を担う母と素直で明るい妹との三人暮らし。その平和な家庭の一家団欒を踏みにじる闖入者が現れた。母が十年前、再婚しすぐに別れた男、曾根だった。曾根は秀一の家に居座って傍若無人に振る舞い、母の体のみならず妹にまで手を出そうとしていた。警察も法律も家族の幸せを取り返してはくれないことを知った秀一は決意する。自らの手で曾根を葬り去ることを…。

第7位は、貴志祐介青の炎』。
バイト先の店長がこれより面白い小説は無いと言っていたので読ませてもらいまして。
すげーー心が痛くなった。

幸せだった家族の生活を土足で踏みにじった実の父親。
法も警察も、家族を守ってはくれない。

少年は決意する。愛する人の為の完全犯罪を

青春をなげうった高校生の孤独な戦い。丹念すぎる心理描写に胸が詰まる。

嘘をつき通すことは、周りを欺き続けることは、少年には容易ではない。
ずーっとドキドキしっぱなしで心臓に悪いことこの上ない。

少年は、その日まではただの少年だったんです

少年の葛藤に心が痛くなる「青春小説」。

総評:72%
オススメ度:★★★★☆

作品データ
タイトル:青の炎
作者:貴志祐介
発表年:2002
出版:KADOKAWA

 

第6位:「SF=少し不思議」な成長物語。

『凍りのくじら』辻村深月

藤子・F・不二雄を「先生」と呼び、その作品を愛する父が失踪して5年。高校生の理帆子は、夏の図書館で「写真を撮らせてほしい」と言う1人の青年に出会う。戸惑いつつも、他とは違う内面を見せていく理帆子。そして同じ頃に始まった不思議な警告。皆が愛する素敵な“道具”が私たちを照らすとき──。

第6位は辻村深月凍りのくじら』。
作家を目指す友人が敬愛するという辻村深月。辻村作品はとりあえずこれから読め!と多くの方から勧められたのがこの『凍りのくじら』でした。

550ページ近くあるこの物語。
半分、いや4分の3くらい読み進めていっても、いまいち何のお話なのか良く分からない。
そこまで劇的なことが起こるでもなく、淡々とただ主人公の時間が流れていく。
うーん、なんだろうこれは。
青春ものってわけでもなく、ミステリでもなくサスペンスでもなく、まあファンタジーではないし、
家族愛てきなものってのもなんか違う気が…うーーん、なんだろうこれは。
ただただ性格のねじ曲がった『ドラえもん』好きの女子高生が日々を過ごして少しずつ自分を見つめ直していくだけだぞ。まぁ、その過程が良いんだが。

と思って嘗めていた矢先だった。

クライマックス。ラスト4分の1。すべてが繋がった
そう、これは青春ものでありミステリでありサスペンスであり、家族愛はたまた人間愛を謳った物語であった。

そして何より、SFだった。そう、少し不思議ね。

あれもこれも、あのシーンへの伏線だったんだなあ。
すごく心穏やかになる読後感。

最後の最後に本当に大事なことを理帆子に、そして読者に教えてくれた。

総評:82%
オススメ度:★★★★☆

作品データ
タイトル:凍りのくじら
作者:辻村深月
発表年:2008
出版:講談社

 

第5位:小説は、最後のページまで終わらないと、信じていた。

『君の膵臓をたべたい』住野よる

ある日、高校生の僕は病院で一冊の文庫本を拾う。タイトルは「共病文庫」。それはクラスメイトである山内桜良が綴った、秘密の日記帳だった。そこには、彼女の余命が膵臓の病気により、もういくばくもないと書かれていて―。「名前のない僕」と「日常のない彼女」が織りなす青春小説。

「普通に生きていて、生きるとか死ぬとか、そういうことを意識して生きている人なんて少ない。事実だろう。日々生死観を見つめながら生きているのは、きっと哲学者か宗教家か芸術家だけだ。」

「あと、大病に侵されてる女の子とか、彼女の秘密を知ってしまった奴とか。」

はい、このランキングも気が付けば後半戦突入でござい。
第5位は住野よる君の膵臓をたべたい』。
ここ最近の小説界の話題を掻っ攫っている新進気鋭の若手作家’住野よる’。
彼(彼女?)のデビュー作にして最注目作の『君の膵臓をたべたい』。
コレだけ話題にされていたら読まずにはいられないだろう?

主人公・「僕」は、他人と関わるのを拒み、いつも一人で過ごしていた。
そんな内向的な「僕」とは反対に、明るく溌剌とした桜良。
そんな二人が織りなす、残り少ない青春の記録。

彼女の見る道の色と、僕の見る道の色は本当なら違ってはいけないんだ。
この言葉に、全てが込められているように感じた。「死」と向き合うことで「生」と向き合ってほしい。

さて、「読後、きっとこのタイトルに涙する。」なんて煽り文句が闊歩する本作。
確かにこの一見にして意味不明なタイトルの謎が解けた瞬間の感動も大きかったのだが…
私がこの物語でいちばん痺れたのは、小説の・物語の・そして人生の「お約束」に嵌らないあの瞬間

小説は、最後のページまで終わらないと、信じていた

物語終盤、主人公がこう漏らす。
私も、そう信じていた。久しぶりに、鋭い衝撃が走った。
そこから、この『君の膵臓をたべたい』は真に怒涛の展開をみせるのだが。

もうすぐ死ぬはずなのに、誰よりも前を見て、自分の人生を自分のものにしようとする彼女。
そんな君に、僕はずっと…

総評:84%
オススメ度:★★★★☆

作品データ
タイトル:君の膵臓をたべたい
作者:住野よる
発表年:2017
出版:双葉文庫

 

第4位:命と誇りを懸けた半額弁当争奪戦…!

『ベン・トー サバの味噌煮290円』アサウラ

ビンボー高校生・佐藤洋はある日ふらりと入ったスーパーで、半額になった弁当を見つける。それに手を伸ばした瞬間、彼は嵐のような「何か」に巻き込まれ、気づいた時には床に倒れていた。そこは半額弁当をめぐり熾烈なバトルロワイヤルが繰り広げられる戦場だったのだ!その不可思議な戦いに魅せられた佐藤は、そこに居合わせていた同級生・白粉花とともに半額弁当の奪取を試みるが、突如現れた美女、「氷結の魔女」に完膚なきまでに叩きのめされる。そして、その美女が佐藤に告げた言葉は…。

「お前にとって半額弁当はただ売れ残って古くなった弁当でしかないのか?」

第4位!アサウラ『ベン・トー サバの味噌煮290円』!!『ベン・トー』シリーズ第一作。
余りにもバカバカしいことを全力でやってのけるのが、私は大好物なのです。

「需要と供給、これら二つは商売における絶対の要素である。
これら二つの要素が寄り添う流通バランスのクロスポイント……その前後に於いて必ず発生するかすかな、ずれ。
その僅かな領域に生きる者たちがいる。
己の資金、生活、そして誇りを懸けてカオスと化す極狭領域を狩り場とする者たち。
――人は彼らを<< 狼 >>と呼んだ。」

そんなそれっぽいカッコいい出だしで物語は始まるが…やってることは要するに半額弁当の奪い合いである。

バカだ。くだらない。あなたはそう思うかもしれない。
だが、そのくだらなくてバカバカしいことに情熱を・時には命をも懸ける彼らの姿は、あまりにも美しかった

争奪戦というのは、比喩などではなく、本当に殴り殴られ、吹っ飛ばされ、流血し…といった具合である。スーパーの弁当コーナーで

だが、ただ暴力で半額弁当を奪い合うだけではない。敵の思想を見抜き、その隙をつく。争奪戦時の頭脳戦・心理描写には目を見張るものがある。よくもまあここまで熱く描けたものだ。

日常部分のノリ・テンションの高さには正直引いた。

総評:71%
オススメ度:★★★★☆

 

第3位:あの名著たちが、現代京都の腐れ大学生にまさかの転生…!

『新釈 走れメロス 他四篇』森見登美彦

あの名作が京都の街によみがえる!? ――馬鹿馬鹿しくも美しい、青春の求道者たちの行き着く末は? 誰もが一度は読んでいる名篇を、新世代を代表する大人気著者が、敬意を込めて全く新しく生まれかわらせた、日本一愉快な短編集。

第3位、森見登美彦新釈 走れメロス 他四篇』。

日本一愉快な青春小説」。
そんな触れ込みが本書には付けられていたが、飛び抜けて愉快なのは『走れメロス』だけだ。

モリミー版『走れメロス』。
「これは信頼しないという形をとった信頼、友情に見えない友情だ」!
本家『走れメロス』では、王との誓約を守る為、親友を守り、友情を示す為、期日までに必ずこの場所に戻ると誓った正義感の強い市民・メロス。

モリミー版『走れメロス』では、図書館警察長との誓約を破る為、親友を見捨てる為、そして親友との真の友情を示す為に、京都中を逃走する腐れ大学生・芽野(めの)。
図書館警察が意地でも約束を守らせようと追っ手を差し向ける中、芽野は約束を破るために逃げ続ける。

愛すべき腐れ大学生たちの愛すべき「真の友情」がこれでもかというほどノリノリで描かれていた。
森見登美彦もコレを描いてる時は楽しくって仕方なかったんだろうなぁ。
とにかくテンポが良く、パロディもふんだんに入れ込まれていて、題材も最ッ高に馬鹿馬鹿しくて、一時も笑いの絶えない逃亡劇が描かれていた。

確かにこの『走れメロス』は「日本一愉快な青春小説」であった。

しかし、他4篇は愉快とは程遠い。
重苦しい・切ない短篇の数々。

だが、それらが実に面白い。

一癖二癖もある大学生たちの心の奥底に潜むものが恐ろしいほどに胸に迫ってくる。

自分を天才だと疑わず、天狗に生まれ変わった文学家志望の青年を描く、新生『山月記』。
自身の彼女とその元彼でラブムービーを撮る映画サークルの鬼才を描く、新生『藪の中』。
恋人の助言で書いた小説で一躍人気作家となった男の悲哀を描く、新生『桜の森の満開の下』。
そして、著者・森見登美彦自身を主人公に置き、上記の全ての登場人物を総出演させ、それぞれの物語をクロスオーバーさせた本書まとめの物語、新生『百物語』。

短編集でありながら、それらの物語が交錯していく構成はお見事であった。

私が特に響いたのは『藪の中』。
様々な視点から、主人公が撮った問題作が語られていき、次第にその全容が明らかになる。
自身の彼女とその元彼で恋愛映画を撮るという一種非道な行動を貫き通した彼の姿は美しかった。
そして、その彼の真意に心を打たれた。
「でも、それが、たまらなくいいんだ」。

『走れメロス』が全力で馬鹿馬鹿しい方向へ走り抜けてくれている為、その他の重苦しい4篇を良い塩梅で読めるだろう。
その辺のバランスも本当に上手いんだなぁ。

名作文学を転生させた今作。原作と比較して読むのもまた一興なのでは。
『藪の中』『桜の森の満開の下』の元ネタを知らないことが悔やまれたので、今度また読んでおきますね。

短編集として完成され過ぎた一作だと感じた。

捻くれ腐れ大学生たちの、
美しくも儚い姿を、とくと見よ。

総評:93%
オススメ度:★★★★★

 

第2位:並んで一緒に歩く。たったそれだけのことがこんなに難しくて、こんなに凄いことだったなんて。

『夜のピクニック』恩田陸

高校生活最後を飾るイベント「歩行祭」。それは全校生徒が夜を徹して80キロ歩き通すという、北高の伝統行事だった。甲田貴子は密かな誓いを胸に抱いて、歩行祭にのぞんだ。三年間、誰にも言えなかった秘密を清算するために――。学校生活の思い出や卒業後の夢など語らいつつ、親友たちと歩きながらも、貴子だけは、小さな賭けに胸を焦がしていた。

「並んで一緒に歩く。ただそれだけのことなのに、不思議だね。
たったそれだけのことがこんなに難しくて、こんなに凄いことだったなんて」。

あっという間なんだよね。なにもかも。

はじまる前はぐだぐたうだうだ考えていたことも。いざはじまってみるとあっという間に終わってしまう。
そして大体、終わってみると楽しかったことしか覚えていない。
『夜のピクニック』を読んで、強く心に残ったのはそんなこと。

人生に終わりはない。一つ一つの出来事に終わりはあっても、人生に終わりはない。

「でも、現実は、これからだもんなあ」
物語終盤、融はこんな言葉を洩らした。
もちろん、これは作家’恩田陸’が描いた小説(ドラマ)だ。私たち読者は分かっている。
でも、小説の中の2人にとっては現実。
「歩行祭」の終りとともにこの「ドラマ」は終わるが、彼らの「現実」はこれからはじまるのだと。
この融のセリフに鳥肌がたった。

なんというか、久々に読み終わってしまうのが寂しくなった小説でした。

物語中、本を読むタイミングの話が出てきた。
私は『夜のピクニック』をこの高校卒業後かつ大学生の青春真っ只中のタイミングで読めて本当に良かった。

私たちの現実も、これからだ。

総評:88%
オススメ度:★★★★★

作品データ
タイトル:夜のピクニック
作者:恩田陸
発表年:2006
出版:新潮社

 

第1位:追い求めたのは、「速さ」ではなく「強さ」。

『風が強く吹いている』三浦しをん

箱根駅伝を走りたい――そんな灰二の想いが、天才ランナー走と出会って動き出す。「駅伝」って何? 走るってどういうことなんだ? 十人の個性あふれるメンバーが、長距離を走ること(=生きること)に夢中で突き進む。自分の限界に挑戦し、ゴールを目指して襷を繋ぐことで、仲間と繋がっていく……風を感じて、走れ! 「速く」ではなく「強く」――純度100パーセントの疾走青春小説。

箱根駅伝

限りなく個人競技に近い団体戦。
だからこそ、仲間との絆が何よりも必要とされるのだろう。
「信じるなんて言葉ではたりないぐらいに」

箱根駅伝を走りたい。
右足に爆弾を抱え、陸上界から距離を置いていた大学4年・清瀬灰二(ハイジ)の燻っていた想いが、
ワケアリ天才ランナー・蔵原走(カケル)と出会って動き出した。

カケルを(半ば強引に)下宿「竹青荘(通称:アオタケ)」に住まわせたハイジは、
カケルの歓迎会の席でアオタケの住民たちに高らかに宣言した。

目指すは箱根駅伝だ

こうして、アオタケ住人10人の、駅伝への挑戦が(まぁー強制的に)始まった。

アオタケの住人は、もちろんのこと陸上経験などまるでない初心者の集まりだ。
ただ家賃が安かっただの居心地が良いだのの理由でボロアパートに住み着いていただけの大学生だ。

そんなド素人集団の、無謀にも思える箱根への道。

最初はやらされている感の抜けきれなかった面々だが…
成長や挫折。嬉しさや悔しさ。走ることを通じて様々なことを経験していく。
大学生。言ってしまえばいい大人な彼らが、無謀に思え得る道に突き進む。最高にアツい。
どんどんどんどん走りにのめり込んでいく彼らの姿を、応援せずにはいられなくなっていた。

速い記録を出す事だけが、全てではない。
10人の選手がいれば、10の走りがあった。
個性豊かすぎる10人には、それぞれにバックボーンがある。
この箱根駅伝へ挑んだ一年を経て、アオタケの各人がそれぞれの答えを出していく。
そこに至るまでの道のりが丁寧に丁寧に描かれていた。

そして、襷を繋ぐ瞬間の感動が堪らない
それぞれが、それぞれの想いを抱えて、襷を繋いでいく。
襷を渡す瞬間・受け取る瞬間の心理描写に毎回毎回心を揺さぶられた。
その二人の関係性であったり、それまでの記憶であったり…
実際の時間にして一瞬のその間に、あれだけの想いが詰まっているんだ。

「速く」ではなく、「強く」
ハイジはカケルにそう言った。

一体、強さとは何なのか。

素直に純粋に。胸が熱くなった青春疾走物語。
物語ってのは「希望」なんだ。

読めば、走り出さずにはいられない。

総評:94%
オススメ度:★★★★★★

作品データ
タイトル:風が強く吹いている
作者:三浦しをん
発表年:2009
出版:新潮社

 

総括 オブ 「この小説がやばい!!H29年度版」。

1.三浦しをん『風が強く吹いている』
2.恩田陸『夜のピクニック』
3.森見登美彦『新釈 走れメロス 他四篇』
4.アサウラ『ベン・トー サバの味噌煮290円』
5.住野よる『君の膵臓をたべたい』
6.辻村深月『凍りのくじら』
7.貴志祐介『青の炎』
8.三上延『ビブリア古書堂の事件手帖~栞子さんと奇妙な客人たち~』
9.アンデルセン『絵のない絵本』
10.山田詠美『ぼくは勉強ができない』

ははい、出揃いましたねH29年度ベスト10。
なんとまぁ、青春小説が多いこと多いこと。
それまでの私は小説といえば推理・ミステリ・サスペンスものを好んで読んでいたのですが、
H29年度はアオハルな年であったそうです。
あと、ライトノベルもちょくちょく読むようになりましたね。
読書の幅が確実に広がっております。良きかな良きかな。

最近だとエッセイとか読むようになりました。あ、冒頭でエッセイも少し紹介するとか言ったっけ…?
…言ったっけ?もう1万字超えてるし、ノミネート小説厳選から執筆にエネルギーを使いすぎて真っ白な灰状態なので。これ以上書く体力は残っていない。
言ってないことを願って、この場から逃げるとしよう。

それではまた、次回の「この小説がやばい!!」でお会いしましょう!!どろん!